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企業が人を雇うとき、雇い方について考えるでしょう。フルタイムとするかパートタイムとするか、出社とするか在宅勤務とするか、期限付きで雇うか無期限とするか、等々。その中に「雇用にするか業務委託にするか」という問いも加えてみてはいかがでしょうか?
「雇う」という言葉はその文字のとおり「雇用」を想定して使われることが一般的でしょう。しかし、必要な人材を確保するという目的は雇用も業務委託も同じです。新卒採用の時期だから、事業拡大をするから、忙しくなってきたから、今いる従業員が退職するから。人を雇う場面は様々でしょう。そんな時、当然に雇用のみを考えるのではなく、「雇用と業務委託のどちらがよいか?」という視点を加えてみると、業務の効率化に資するかもしれません。本稿では、主に企業がフリーランサーや副業人材などの個人と業務委託契約を締結する場合について、雇用契約を締結する場合と比較しながら考えてみます。
雇用とは、一方当事者(労働者)が相手方当事者(使用者)に使用されて労働に従事し、使用者はその労働に対して賃金を支払う契約関係です。
業務委託とは、発注者がその業務を外部の者(他社やフリーランス等)に外注する契約関係です。なお、一般的に業務委託は「請負」(仕事の結果を目的とする契約)と「(準)委任」(仕事の実施を目的とする契約)の両方を含む用語として使用されています。
雇用も業務委託も、仕事を依頼して対価を支払うという関係は同じですが、仕事を行う者と仕事を依頼した者の間に指揮監督関係があるかどうかという違いがあります。企業の指揮監督下で仕事を行う場合は雇用、指揮監督下にない場合は業務委託です。指揮監督下にあるか否かは、主に下記の点を考慮して判断します。
業務委託契約は、雇用契約と比べて企業のコストを軽減できるというメリットがあります。雇用契約の場合、企業は労働者の社会保険を負担し、時間外労働をした場合は割増賃金を支給し、いったん雇用した労働者は正当な解雇理由がなければ解雇できません。労働者の安全衛生に対しても一定の責任を負います。これらは労働者の権利として法律で保証されていますので、企業は守らなければ罰則を受けます。また、雇用した以上は労務管理や人材開発(企業内研修の実施や外部研修受講のサポートなど)などのコストも発生します。業務委託の場合、基本的にこれらは不要です。必要な業務があるときだけ発注すれば良いので、労働者のように雇用し続けなければならないコストは発生しませんし、社会保険の費用や手間も省けます。業務委託ではその業務に適正のある者を選択して発注しますので、人材開発を気にする必要もありません。
他方、業務委託契約では、受注者はあらかじめ契約書で定められた業務を受注者自身のやり方で実施することになりますので、発注者が受注者に対して細かい指示を出したい場合や、臨機応変に様々な作業を指示して行わせたい場合には向きません。受託者の作業進捗を逐一チェック・指示することができないため、提出された完成品の品質が期待していた水準を大きく下回っていた、という事態も生じ得ます。また、業務委託で専門性の高い業務を発注する場合、受託してくれる業務委託先が見つからない危険がありますし、見つかったとしても高額な業務委託料を支払わざるを得ない危険もあります。また、雇用している労働者であれば知識・経験が蓄積されてやがて自社で安価でできるようになるような業務であっても、業務委託先に発注すると企業内での知識・経験の蓄積は得られないため、その後も毎回業務委託先に依頼せざるを得ず結局は高くついてしまう、ということも考えられます。
業務委託契約の場合、受注者は個別具体的な指揮命令を受けずに業務を遂行することができますので、業務実施の時間・場所・方法についてある程度の自由を得ることができます。また、自分が得意とする分野のみを選んで受注することができますので、やりたくない業務を避けつつ専門分野を磨くことが可能となり、専門性を高めることによって雇用される場合の賃金よりも高額な業務委託料を要求することができるようになる場合もあります。案件を受注するペースも自分次第ですので、一時期に集中して案件をこなして案件受注を控える期間を設ければ、長期間にわたる自由時間を確保することも可能となります。
他方、受注者は労働者ではないため、労働関連法規による保護を受けることができません。雇用保険や労災保険等の社会保険には加入できませんし、労働者を解雇する場合よりも容易に企業側から業務委託契約を解除されるおそれもあります。また、随時自分で案件を探して獲得しなければなりませんので、なかなか案件が決まらない場合は収入のない状態が続いてしまいます。このように、受注者は企業から一定の自由を確保する代わりに、その地位には不安定な面があります。税務申告も自分で行う必要があります。
雇用した労働者に対しては、企業は様々な業務を幅広く命じることができ、その実施する時間・場所・方法についても細かく指示することができます。業務の進捗を細かくチェックしながら指示を出せるため、製品やサービスの品質もコントロールできます。また、雇用している人材の知識・経験は企業内に蓄積されますので、従来は外部に業務委託していた高額な専門的業務も、雇用人材に行わせることによって自社内で賃金の範囲内で実施することができるようになる可能性もあります。
他方、上記のとおり労働者は労働関連法規による保護を受けますので、企業側には労務管理コスト(社会保険への加入、解雇制限の適用、人材開発の必要性など)が発生します。
労働者は上記のとおり労働関連法規の保護を受けられますので、いったん雇用されれば容易に解雇されることはありませんし、企業側が社会保険に加入してくれる、最低賃金は保証される、等の身分の安定を得られます。年次有給休暇や病気休暇などの有給で休暇を取得する制度も利用可能ですし、税務申告等の面倒な手続も企業側が行ってくれます。
他方、労働者は企業側に指定された就業時間中は企業側の指示どおりに業務を実施しなければなりませんので、時間的・場所的な自由は制限されます。また、指示された業務を断る自由がありませんので、自分のやりたくない業務をやらなければならない場面は業務委託の場合よりも多くなる可能性が高く、自分が経験を積んで専門性を高めたいと思っている業務があってもそれを企業側がやらせてくれるとは限りません。
雇用にするか業務委託にするかは企業と人材が合意して決めることですので、明確な合意さえできればどちらを選択することもできます。結局、上手く使い分けるのが良いというのが一つの答えです。上手く使い分けるためには下記を理解しておくことが重要です。
雇用契約の場合、労働時間中は様々な業務を指示して行わせることができ、それを積み重ねることによって経験を積み効率性が上がることが期待できますので、幅広い業務を長期的視点で行う人材に向いているといえます。
業務委託契約の場合、特定の業務のみを発注し、その業務が終われば終了になりますので、単発で生じる業務や雇用している労働者では対応できない専門的な業務を行わせる場合に向いているといえます。
偽装請負という言葉を聞いたことがあるでしょうか?偽装請負にもいくつかのパターンがありますが、例えば企業がフリーランサーや副業人材と業務委託契約を締結したにも関わらず、雇用の場合と同じように指揮監督を行う場合などを指します。この場合、受託者は雇用のように時間場所を指定されて企業の指示通り動くにも関わらず、雇用の場合は受けられる社会保険や労働法規による保護を受けられないことになります。企業側から見れば、雇用のように逐一指示を出しながら、業務委託のように社会保険や労務管理のコストを免れるといういいとこどりをしようとするもので、違法となります。
企業が雇用の代替として業務委託を選択すること自体は全く問題ありません。ただし、業務委託を選択した以上は雇用との違いを理解し、その人材に対する接し方を間違えないようにしましょう。